よむためにうまれて

これは、子どもの本の専門店や、気に入った本屋さんのはなし、などなど、上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるする記録です。

タラブックス展にゆく①

さて、タラブックスのお話をニジノ絵本屋さんの回でしましたが、

続けて、板橋区立美術館のタラブックス展のお話です。

 

 

展示のタイトルは「世界を変える美しい本ーインド・タラブックスの挑戦」

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(写真は美術館の自動ドアです。ワクワクしました。)

タラブックスはギータ・ウォルフさんとV・ギータさんの2人の女性が立ち上げたインドの出版社で、

従業員40人程度の小さな出版社ながら、その絵の独自性と1冊1冊を職人さんが手刷る絵本を届けていることで有名です(手刷りではない絵本も出版しています)。

日本では、主にタムラ堂から何冊か翻訳版が出ています。

私がニジノ絵本屋さんで買った『夜の木』も手刷りの本で、2000冊刷る内の968冊目だと、背表紙に手描きで書かれています。

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展示は見所がたくさんあって、私は2時間チョットしか時間が取れなかったのですが、もう、全然足りませんでした。

あと30分か1時間取れればなぁ、と思いました。

まだ来年8日まで日にちがあるので、もしも時間が取れたらもう一度行きたいです。

 

さて、展示のハイライトは何と言っても、展示コーナー奥の「コ」の字のスペースを利用した『夜の木』の展示ではないでしょうか。

壁にずらっと展示された各国語の『夜の木』の表紙に始まり、

絵本に登場するさまざまな木たちの絵が並びます。

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ゴンドの村の実際の木の写真も吊るされていて、絵からも写真からも、息吹を感じることができる空間は、圧巻です。

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ちょっと涙が出そうになりました。

 

別の展示コーナーでは、長い絵巻物が天井から吊るされています。

伝統的にインドの村で絵巻物をめくりながら語られてきた口頭伝承のかたちを、そのまま絵本にしています。

村の語り部が絵巻物の製作者でもあるとのことで、

彼女(語り部)がどんなふうに絵巻物を描いているのか、どんなふうに両親の仕事を見て受け継いでいったのか、

インタビューの映像とともに知ることができます。

 

他にも、展示コーナーの何箇所かでさまざまな紹介ビデオが上映されています(ビデオ上映は1630まで)。

手刷りの絵本の製作現場の様子や、設立者2人のお話や、チェンナイの街角の様子などが上映されています(ビデオも一つ一つ見ている時間を取りたい方は、たっぷり3時間以上の滞在時間を取ることをオススメします)。

その中に、『母なる神の布』を手がけた職人さんのインタビュー映像があります。

インドには、さまざまなテキスタイルの技術が伝わっていますが、その中で、宗教儀式用のテキスタイルを代々制作してきた村(あるいはファミリー)があり、その職人さんが染色職人さんらとともに手がけたものだそうです。

ですので、タラブックスの本は、インドのテキスタイルが大好きな方なんかも特に好きになるんじゃないかと思います!

そのインタビュー映像の中で、職人さんが、1冊1冊を「神聖な祭壇」だと思ってくれれば、と語っているのがとても印象的でした。

祭壇を届けているつもりで製作している、と。

芸術の原点のようなものが、“絵本”という形態に出会い、そのまま綴じ込められているんですね。

いうなれば「民芸」という括られ方に近いところにあった職人さんたちの絵。

ローカルで、“無記名”だったものの延長線上で創作された絵本が、

こんなふうに世界へ伝播する、そんな現象に立ち会えていることに感動してしまいます。。

またある意味では、無形文化遺産として、そのうち保存対象になるようなローカルな手仕事が、新しい媒体を得て活気付く様を見ているようにも思います。

絵本の世界における「民芸運動」のようにも思えます。いろいろ考えさせられます。

 

以前、日本民藝館で開催された「カンターベンガル地方の針仕事」という展示を見に行き、衝撃を受けたことがあります。

カンタはベンガル語で「刺す」という意味だそうで、とても鮮やかで活き活きとした刺繍のほどこされた布です。

そのとき、これはもはやテキスタイルという以上に、絵本のような世界観をもった芸術だろうと思いました。

布の中に物語が織り込まれ、絵が画面いっぱいに躍動しているのが、

絵本を開いたときのような心が躍る感覚とそっくりだと思ったのを覚えています。

(そういえば、タラブックスの絵本の紙には、使い古したコットンが原料として使われているそうです。)

その当時の日本民藝館の展示が特集されていた「民藝」2014年9月号を、今回タラブックス展を見て再び開いてみましたが、

その中にあった岩立広子さん(民族染織収集家)の言葉は、タラブックスの絵本に通じるものがあると思いました。

   “布を手に取り縫う時間は、その人にとって夢のような時間だったと思います。

  手元から自分の夢の世界が生まれていく、それが完成した時の幸せ感は、

  創造の喜びに満ちていたことでしょう。完成度の高いものもありますし、

  とても素朴なものもあり、その美しさは、それぞれが二枚と同じものがない、

  素晴らしい芸術になっています。”

  “これには、ささやかな暮らしが、全部表されていて、愛おしさがある暮らしを

  彷彿とさせます。こういうものは、刺繍の世界でも忘れ去られているのではないか

  と思うのです。まるで子供が作ったものではないかと思うほど、

  子供の気持ちまで表現しています。”