よむためにうまれて

上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるしながら、ぷかぷかと日々に浮かぶマナティのような個人的記録も編んでいます。

’Julian Is a Mermaid’:日本語版出版のためのクラウドファンディングのチラシと出逢う

先日、めいっ子の誕生日プレゼントを物色しに、

神保町のBook House Cafeに行ってきました。

例によって本棚をくまなく見て歩き、何冊か候補を見つけたのですが、その日は何となく買わずに、もう少し考えてまた来よう、と思って、お店の自動ドアの方へ向かいました。でも、何も買うものがなかったせいで、ギリギリまでいろいろ物色したかったのでしょう。自動ドア横の特集スペースもしっかり見て、さて出ようか、、、、としていたところ、店を背に、自動ドアに向かって左手の目線より少し高い位置に置いてあった小さなフライヤーが目に入りました。

そのフライヤーに印刷されているサーモンピンク色の絵本の表紙を、私は、この夏何度も何度も開き、そのたびに新しい発見をしました。

 

Julian Is a Mermaid

 

は、おそらく出版以降、英米の児童書出版の中でもかなり話題になった絵本のひとつです。もはやブームといってもいいかもしれません。イギリスの本屋でも、話題の本の一つとして、表紙が見えるように立てかけておかれていたり、平積みになっていたりしたのをよく見かけました。

ロンドンの大型書店Foylesに行ったときにも見かけました。記事内7枚目の絵本売り場の写真の中で、棚の上段中央に置かれているのがわかります。)

 

お店を出ながらさっとチラシに目を通しましたが、内容がある意味ではとても“ショック”で、神保町の駅まで歩きながら、チラシから目を離すことができませんでした。

 

それは、Julian Is a Mermaidの日本語版を出版したいという翻訳者さんが、クラウドファンディングでその資金を集めている、という案内でした。

 

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私は、すぐにもこのプロジェクトを応援したい、という思いと同時に、

 

なぜなぜなぜ???

 

という疑念が地下鉄の中で湧き上がってきました。

 

なぜ、クラウドファンディングで資金を募らないとこの絵本を出版できないのか?

 

「この絵本」という言葉よりも、私にとっては「これほどの絵本を」と書いた方がいいのかもしれません。自分自身がこの絵本を留学中の修士論文の分析対象のひとつにして格闘していた濃密な3ヶ月の時間と、目の前の「事実」が頭の中で分断されていて、その2つが全くつながりませんでした。

 

それほどこの絵本は、出版当初から後々の児童文学史に「クラシック」となって残るだろうことを予見させる絵本だからです。もちろん、扱っているテーマがデリケートなだけに、賛辞だけでなく、批判の声もあることは確かで、そこには読み手がどの立場にあるか、児童文学は誰のための文学か、ということも関係してきて、それは児童文学の非常に重要な課題にもつながることです。

ただ、

この本はそこに触れてきている本だ、

ということは事実だろうと思います。

 

自宅に帰って、ファンディングのサイトを開いてみて、発起人の横山和江さんが、この絵本を出版したいと思って、児童書出版社に持ち込んでみたものの、出版業界のさまざまな事情 ― 見込める売れ行きや、「置く棚が難しい」というハードルから、刊行に至らなかった、とファンディングの紹介の最後で説明されています。

 

greenfunding.jp

 

「置く棚の問題」ということは、つまり、この絵本の「居場所」が、日本の本屋にはない、ということなんだろうか、とサイトを読みながら考えました。

 

確かに、私がこの絵本を最初に手に取ったのは、グラスゴーのWHSmithに課外授業として行った際です(あ~、その記事も書けていないまま日々にドサドサと埋もれてしまっていました・・・)。広く取られた児童書コーナーの一角に、「LGBT」と書かれた本棚があり、そこで手にしました。

 

個人的には「LGBT」という本棚があろうがなかろうが、読者がLGBTQ+に含まれる性別であろうとなかろうと、この絵本は読む人にふれてくる何かがあると思っています(そして私はその「ふれてくる何か」を明らかにして言語化する作業に四苦八苦していました)。

 

こちらのブログにたまたま目を通してくださった方は、ぜひ、ファンディングのサイトにアクセスしていただければ嬉しいです。

ご支援されるか否か、ではなく、この絵本について知るだけでも、あなたの世界を少しだけ広げてくれるだろうと思うからです。

そしてもしもこの絵本を原書でも、日本語版でも、いつか開くことがあった日には、必ずあなたの世界をほんの少し温めてくれるだろうと思うからです。

 

それはおだやかなビーチで、波の音を聞きながら味わう日光に似た暖かさです。

 

その日差しの中で、この絵本の扱うジェンダーのテーマに関わらず、

 

自分は自分であっていい

 

というまっすぐで、たっぷりとした肯定感が湧いてくることと思います。

 

(つづく・・・、続けます!)