よむためにうまれて

上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるしながら、ぷかぷかと日々に浮かぶマナティのような個人的記録も編んでいます。

ロンドンの児童書専門店:Tales on Moon Lane ② ―多様性とのあいだで

前回からのつづきです。

 

 

Tales on Moon Lane を訪ねて、本棚を見ていると、ふと、(このエリアはもしかして黒人の住民が多いのではないか)と思いました。

もしくは、店主さんのこだわりで、そういった多様性の尊重が本棚に表現されているのだろうか、と思ったのです。

駅前のエリアからは、そうした層の住民がいるのかどうか、町の特徴を感じられるようなことはなかったので、このときは、気のせいかな、くらいに思っていました。

 

通り側のスペースをざっと物色し、奥のスペースも見てみることにしました。

こちら☟は、その奥のスペースとをつなぐ短い廊下です。


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白い壁に、イラストとサインがいっぱい描きこんでありますが、これはすべて、書店に来た作家さんたちの直筆と思われます!

すてきな落書きたちです!

壁に絵が描ける、というのは子どもの永遠の夢ですね。笑。

 

さて、奥はノベルの本棚が並んでいまして、そこで黒人の少女のバレリーナの本を発見し、衝動買いをすることに。

どうやらノンフィクションのようなのですが、実は、修士論文で、Julian Is a Mermaidのほかに、Amazing Grace (by Mary Hoffman & Caroline Binch) という絵本を扱いました。その絵本の中に、主人公のグレースを勇気づける重要なアイコンとして、黒人のバレリーナが登場するのです。

それで、荷物の重量が本1冊ですら赤信号が点滅するような状況でしたが、うれしくなって、つい買ってしまったのです。この本はまだ読めておりませんが、Tales on Moon Lane でこそ、買ってよかった、と、あとでお店からの帰り道に思うことになりました。

 

さて、行きはHerne Hillで降りたのですが、次の目的地への移動には地下鉄の方が便利だったので、遠そうでしたが、散歩がてら最寄りの地下鉄まで歩くことにしました。

ちなみに、もしも時間があるようなら、Herne Hillの駅のまわりの商店ものんびり見てもいいかもしれません。

☟素朴な素材で作られた雑貨のお店や、

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駅を出て右へ行くと、別の本屋さん☟もありました。
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最寄りの地下鉄は、Brixtonです。

イギリスやロンドンに少し詳しい方なら、きっとこの駅名でピンとくるのだろうと思いますが、私は、全く知りませんでした(笑)。しかし、駅までの道を歩きながら、先ほど Tales on Moon Lane の中で「ピン」ときたことが、合っていたのか~、と逆に答え合わせができました。

 

通りを行く人に、黒人の方が多いのです。

おじいちゃんがにっこり笑いかけてくれたりします。

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そうなのです。

「ブリクストン」でググってみると、旅行案内サイトなど、さまざまな町の魅力が検索できるかと思いますが、黒人街、といってよいエリアなんですね。治安が悪いという情報もかつてはあったようですが、私が歩いていたときは、そうしたことは感じませんでした。むしろ、駅のすぐそばのマーケットなどは、アジアにいるような活気を感じました。

絵本 Amazing Grace修論のなかで扱うにあたって、黒人のしかも女の子、という二重にも三重にも、社会的な偏見が重なってくることを理解するために、社会学系の論文をかなり読みました。そんな経験のあとで、こうして思いがけずBrixtonに来られたことが、とてもうれしかったです。

ちなみに、Amazing Grace は、おばあちゃんから物語をきくのが大好きで、そしてその主人公になりきって遊ぶことはもっと大好きなグレースが、学校でピーター・パンの役を射止めるおはなしです。ピーター・パン役に手を挙げたグレースは、友だちから、グレースが黒人で女の子であるために、白人の男の子のピーターの役はできないよ!と言われてしまうのですが・・・☆

この絵本でも、Julian Is a Mermaid のように、おばあちゃんがグレースを応援してくれます(^-^)

 

さて、Tales on Moon Lane は、Brixton から Herne Hill までのこうした住民層を反映して、児童書を取り揃えていたのです。私のような、全然この町のことを知らなったアジア人の部外者にも、それがちゃんと、本棚から伝わってきていたのだな、とわかると、駅までの道で、ひたひたと感動がやってきました。

なんてすてきな本屋さんだろう、と。

少し前に、ディズニーのリトルマーメイドの実写版プリンセスに、黒人の女優が起用されることになって、いろいろと議論が沸き起こって話題になりました。欧米では表現の場で、人種に対する見えない壁を取り払うべく、さまざまなところで、枠組みから自由であろうとする試みをつづけています。そして、無意識に潜んでいる人種や性別への差別に対して、社会が非常に敏感に反応しているな、とも思いました。

日本は、こういうところは、数十歩も遅れているかもしれません。

 

本屋さんにとっての表現が、本棚や飾りつけや提供する空間であるとするなら、Tales on Moon Lane は、そこから、地元の子どもたちの顔が、鏡のように見え隠れするのが、すばらしいと思いました。

 

Brixtonの駅周辺の街頭には、こんなのぼりがかかっていました。
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BrixtonはBrixtonであって、唯一無二の町だ、というようなことがのぼりには書いてあります。この色にこの星のついたデザインは、何かBrexitに対するメッセージも含まれているのだろうか、などとちょっと考えました。

 

たとえBrexitが完了しても、きっとこの歴史的大転換は、あとあとまで、何かにつけて、「あのときの選択によって」と言われ続けるでしょう。クラスメートが冗談で言っていた、スコットランドの独立も、ひょっとするとひょっとしてしまうかもしれません。

まるで、手術で接合して数年かけてしっかりと組織が体の一部として動くようになったところを、もう一度切り離そうと、さらに難易度の増した外科手術をしているような、そんな痛ましさを感じます。。。

 

移民を受け入れ、移民によって社会を成り立たせてきた国の、歴史的転換点が迫っているとき、Brixtonの町は、どこか、たくましく、そして、たのもしく見えました。今までも、今も、差別や格差と闘っているけど、「俺らは唯一無二だ」という信念が感じられるようでした。

 

政治はまだ混迷の途上にありますが、本棚を眺めていると、町に住む子どもたちの顔が見えてくるような、そんなすばらしい子どもの本屋さんもある国です。

 

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ブリクストンの駅

 

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