よむためにうまれて

上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるしながら、ぷかぷかと日々に浮かぶマナティのような個人的記録も編んでいます。

今こそ本を📚:老いと死を考えさせるイタリアの児童書①

ヨーロッパでの死者数が、止まらないなぁ、、、と思いながらニュースを見ていて、ふと、東日本大震災のときも、死者数が増えていく中で、途中から、命が数になって積みあがっていくことに慣れてはいかん、という思いが出てきたことを思い出しました。

その一人一人には物語があって、一人一人を愛していたさらに膨大な数の誰かがいる、という事実に、報道が追いつかないだけだった、と。

日頃スキンシップをとってきた愛情の深い人たちにとっては、世界で最も大切で、最もこのウイルスに弱いと言われているおばあちゃんおじいちゃん、あるいはお父さんお母さんに、今こそハグをしたいけどできない歯がゆさ、切なさへの想像力をもちたいなぁ、と思いました。

きっと、つらいだろうな・・・、と。

そこで思い出したイタリアの物語があります。

 

留学中に出逢った本で、

『Aldabra: The Tortoise Who Loved Shakespeare(アルダブラ:シェイクスピアを愛したカメの物語)』(2001,英訳2004)というすてきな物語です。

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”ALDABRA: The Tortoise Who Loved Shakespeare" by Silvana Gandolfi, translated by Lynne Sharon Schwartz

この本はたぶん、おばあちゃんの登場する本を探していて見つけたのだと思います。

とにかく、いろんな論文やら書評やらを読んでいて、おもしろそうだな、と思ったら、すぐにポチポチと注文したり、図書館で探したりしていて、その中の大当たりだった1冊です。

イタリア人の作家さんの、イタリア語原作のものです。

今や観光客がいなくなって、水がきれいになったといわれている、水の都ベネチアを舞台にしています。

主人公の女の子の、エリザ(あるいはエリーザ)の一人称で語られるストーリーで、おばあちゃんがカメになってしまう、というユニークなプロットが特徴です。

エリザはお母さんと暮らしていますが、お母さんとは関係を絶って何年も経っている、エイアおばあちゃんのところへも、しょっちゅう遊びに行っています。

物語は、このエイアおばあちゃんのミステリアスな言葉ではじまります。

「エリザ、死をだしぬく方法はね、自分を変えてしまうことよ。」

おばあちゃんは、存在自体がとても不思議に描かれています。どうしておばあちゃんと付き合わなくなってしまったのかを問いつめたエリザに、お母さんは、おばあちゃんが、ある日突然、危険な人になってしまったと語ります。

おばあちゃんにとって、危険な人に。おかしな行動が増え、コロンを1本飲みほしてしまったりするようになったのだ、と。

そして、今でもおばあちゃんの息は、そのときのコロンの、ジャスミンの香りがします。

エイアおばあちゃんは、シェイクスピアをこよなく愛し、中庭で絵を描くのを日課にしています。オフィーリアの役をすることになったエリザにもアドバイスをくれます。

シェイクスピアを心から演じられる人間は、人生のすべてを理解できるわ。」 

物語の冒頭の言葉とともに、この物語に出てくるエイアおばあちゃんの2大名言といってよいでしょう。

 

さて、そのおばあちゃんは、物語が進むにつれて、少しずつ、少しずつ、巨大なカメへと変身していきます。

ベッドの下に丸くなって眠るようになり、キャベツを食べるようになり、カメへと変わってしまいます。

そんな不思議なことが本当にできるの?!と思いますが、同じような疑問を投げかけるエリザに、エイアおばあちゃんは、「できる」と答えます。

とてもとてもとても強く念じたら、できるのだと。

カメの甲羅、つまりべっ甲のくしが、ヒントになって、エイアおばあちゃんはカメに変容したのだといいます。

・・・ということを、もちろんカメになったおばあちゃんはもはや、うまく話すことはできなくなっていくので、おばあちゃんはゆっくり指で砂に文字を書いて話します。

 

エイアおばあちゃんの変身したカメは、アルダブラゾウガメという、150年以上生きられるカメで、インド洋に浮かぶアルダブラ環礁に生息しているそうです。

そしておばあちゃんは、次第に、「ホームシックだ」とエリザに訴えるようになります。帰りたい、と。アルダブラへ行きたい、というようになります。

困ったエリザは、インターネットで、爬虫類マニアの青年と知り合い、アルダブラゾウガメを持っている、と相談をもちかけます。しかし、この青年は、そのゾウガメを、自分のコレクションのために譲ってくれ、とエリザに迫るので、エリザは青年には絶対に渡さない、といって断ります。

 

さて、ゾウガメになったおばあちゃんは、ベネチアが冬になるにつれ、寒くて1日のほとんどを眠ってすごすようになります。

冬眠です。

しかし、クリスマス休みに入ってから、ベネチアは高波におそわれます。

(読んでいて私は、ベネチアって洪水になるの?と思いましたが、まさに去年、実際に50年に一度の大変な浸水になりました。)

街が浸水していく中、おばあちゃんが心配になったエリザはエイアおばあちゃんを何とか起こして避難させなければならない、と思い、おばあちゃんのところへ向かいます。

おばあちゃんは無事でしたが、そこへお母さんもやってきて、お母さんは、長い間会っていなかった上に、カメになったおばあちゃんと対面します。

お母さんは最初信じられませんが、カメから、おばあちゃんのコロンのジャスミンの香りがしていて、そのゾウガメがおばあちゃんであることを理解します。

 

エリザとお母さんは、カメになった重たいおばあちゃんを連れ出そうと、ボートを用意するために走ります。

しかし、ようやくボートを用意して夜中にもどってくると、そこにおばあちゃんの姿がありません。

なんとおばあちゃんは、エリザがネットで相談した青年に盗まれそうになっていました(青年がおばあちゃんの居場所を知ったあらすじはひとまず割愛)。

青年も眠っているようでしたが、おばあちゃんまで眠っています。寒くてまた冬眠しはじめているのです。

エリザとお母さんは、マクベスの魔女のセリフを即興もまぜながら、大きな声で演じ始めます。恐怖に驚いた青年は逃げ出し、おばあちゃんは、大好きなシェイクスピアに目を覚まします。

どうしてついて行ったりしたの!と問い詰めるエリザとお母さんに、

「だっておいしそうなニンジンをくれたから」とおばあちゃん^-^

 

カメになったおばあちゃんは、お母さんとも仲直りをして、ここまで読んでいると、エリザの気持ちに沿うように、「こうして2人と1匹で仲良く暮らしていけたらいいのに」と思ったクライマックスだったのですが、エピローグがつづきます。

 

(長くなったので、つづく)