『森のおくから』(ゴブリン書房)は、作者が小さい頃から聞かされていたおじいさんの体験を描いたものだそうです。
1914年のカナダ。
主人公アントニオの家族はホテルを経営していて、いつもさまざまな人たちが泊まりにきています。アントニオは個室や大部屋のさまざまな宿泊客に興味をいだきながらホテルである実家を楽しんでいます。
そして、同じくらい興味がわくのが、ホテルのまわりの森の中に見える、動物たちの痕跡。
ウサギやシカやキツネやリスや。
ところがある日、山火事が発生します。人間たちはホテルから出て、急いで森のそばの湖に入り、火事を逃れます。
そこへ、森の中から動物たちが続々と湖へ入ってきて、人間といっしょに火事のおさまるのを待ちます。
そんなことってあるのぉ?!と思いますが、これが本当に起こった実話をもとにしているそうです。
「Gowganda」で実際にググってみると大自然の風景、そして湖の写真が出てきます。
火事によって森に生きるみんなが避難してきたことで、いつもその命の痕跡だけは知っていたけれどなかなか出会えなかった動物たちの息づかいを、実際に間近に感じられたわけです。
ひとつの出来事が、その場にいるすべての人たちをつなぐ、ということはありますね。
あるいはもう、世界中の人たちをつなぐこともある。
いっしょに避難する、という共通体験が、他者の息づかいを感じさせてくれる。
同じように自分の身を守ろうと湖へやってきたものどうし、そのひとときは、互いの存在を等しくする何かがはたらいている。
命に危機が迫るできごとを前にして、互いの命が等しくそこに存在していることを初めて知るようなものかもしれません。
そういうとき、大抵、そのできごとは災害だったりするわけですが、「害」の向こう側で「世界」だと思っていたものが変質する。
わざわいは、わざわいだけで終わることなど決してなくて、昔の人間だったら、そういうできごとに「神」を見出したりしたのでしょう。
「ほんとうにあったできごとです」と言われると、最初、ふーん(´・ω・)、と読み終えてしまったのですが、時間が経つごとに(・・・いやいやちょっと待て)と、静かにその湖での時間がじわぁぁっと心のおくで広がり出してきました。
この動物たちや火事、湖をひとつひとつ考えだすと、その“おく”にひそんでいるものに、考えが止まらなくなります。
今日のニュースで、温泉につかるニホンザルを見ていて、あ、ここにも人間と動物を等しくするもの、あったねぇ( ̄▽ ̄)と思いました。
温泉もまた、すべての人を同じ温度のもとにいやしてくれますね(笑)。
そして絵本の最後、火事を逃れて湖に避難した人たちも、ちゃんとみんなあたたかい夜を迎えます。