よむためにうまれて

上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるしながら、ぷかぷかと日々に浮かぶマナティのような個人的記録も編んでいます。

in this skin, in this place, in this time

'Take their ways if you need them, [...]

 but don't forget your own.'

          — The Birchbarh House by Louise Erdrich

 

イギリスで買ってきた本の中には、そのとき(これ読んでみたい!)と思って手に入れても、どの ‛文脈で’ そう思ったのか、もはや思い出せない(笑)本もあります。

その本のひとつが、The Birchbark Houseでした。

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芋ずる式読書の中で、きっとこれもどこかの本の中でこの本のことを知り、急いでその場で古本屋サイトから注文したはずなのですが、どんな本が糸口になったのか、もはや思い出せません。

このペーパーバックの装丁の(う~ん・・・(._.))となるデザインを眺めながら、(う~ん)と思い出そうとして見ましたが、とうとうやめました。

 

最初に気がつくのは、『秘密の花園』と同じような始まり方で、天然痘で家族がみんな死んでしまった中、主人公がただ一人生き残り、孤児になっているところから始まる点。

この天然痘は、あとあとの伏線としてクライマックスに生きてくる仕掛けになっている。

率直に言って、前半若干の退屈をしながら読んだことは確かです。

そして、オジブワ語がときどき混ざってくることも若干の読みづらさでした。巻末に、オジブワ語と英語の対照リストが載っているのだけれど、すべて無視して読み進めました。その分からない言葉を分からないままにしておくことで、登場人物が英語圏の外にかろうじて居てくれるような気がして。

そして、繰り返し出てくるオジブワ語は、最後に向かうほど、何となく意味がわかってきます(笑)。

主人公のOmakayasは、樺の樹皮でつくられた家に家族と暮らし、近くには親戚のおばさんやおじさんがいたり、父の友人の面白いおじさんたちが訪ねてきたりする。

そして、湖のそばで知り合うクマの親子や、賢いカラスとの交流を通して、自分自身を少しずつ発見する。自分自身の発見が、まわりの家族を通してなされるのではなくて、むしろ動物によってもたらされることは、面白いです。

季節を一周する物語の枠組は、そのままOmakayas自身の中にある円環と重なり合います。

 

📚

作者のルイーズ・アードリックは、子どもの本の作家としてよりも、ネイティブアメリカンの血を引き、先住民の小説を書いていることで有名なのですね。数々の賞を受賞しています。

近代児童文学は、他者化された存在、マイノリティで、クィアで、マージナライズされ、メインストリームにいない存在を中心に据えることで発展してきているので、ネイティブアメリカンの部族の物語であることは、それ自体は児童文学には‘ドストライク’な設定だと思います。なので、やはりその主人公の何らかの、世界から外に置かれたような状況、その暗い中に浮かぶ「小さな窓」からいかに巨大な宇宙が出現するかを表現することが、児童文学の中での存在感になってくるのだろうと思います。

だから、クマとかカラスもやはり、児童文学にとってかなり‘ドストライク’な登場人物(動物)です。子どもの本の中では、全然、動物は喋るし、人間と交流します。つまりネイティブアメリカン的特色が、児童文学の領域に入ってくると「王道感」に変わります。

あらゆるものの輪郭が曖昧で、境界線がぼやけ、さまざまな区別がかき乱される世界が広がっていたら、その中で唯一無二を醸し出すには、相対的特殊性に頼れない。

そうした中で、この「天然痘」が果たしている役割はとても大きい。

天然痘」が故に、Omakayas自身が光ってきます。

仏教だと、病気は四つの真実のうちの一つと言われていますが、「天然痘」はまさに彼女の真の姿を照らすきっかけのようです。

この病気によって、彼女は自分だけの悲しみを抱えることになり、自分にこそできる役割に気づき始め、自分がどうして今ここにいるかを知り、自分だけの世界の認識の仕方を自覚する。

そういうものが、最後、光のようにどばーっとさしてきて、それまでの日々、独り取り残されていたスピリット島から拾われ、ここで過ごしてきた今までの日々を照らし、読み終わって気がつくと、自分の中にOmakayasと過ごしていた時空間がちゃんと場所を占めていることに気がつきます。

 

アードリックは、バーチバーク・ブックスという名前の書店も開いているそうです。ただの書店としてではなく、さまざまなイベントもそこで開催しているようです。

この「バーチバーク・ハウス」という言葉は、きっと衣食住のすべてが営まれる空間として、それだけで何かが薫ってくるような意味合いを持っているのだろう、と思います(邦訳タイトルは『スピリット島の少女』)。バーチバークという素材の示すものの多義的なあたたかみを、大事にしているんだろうなぁ、と思いました。

Birchbark Booksで検索すると、書店のHPが出てきます。名前の横にはカラスがとまっていますよ(*^_^*)

 

 

今朝、カラスが鳴いているのを聞きながら、君もなんかしゃべってごらんなさいよ、と思ってしまいました(笑)。