3月11日。
四季がめぐって、一年という単位がくりかえされる地球というのは、本当によくできた星だな、と思います。
忘れないで、生きていくんだよ、と言ってくれているかのようです。
今日は、オリバー・ジェファーズの絵本から、この名作のおはなしをしようと思います。
オリバー・ジェファーズのThe Heart and the Bottleです。
(光の加減がうまくいかず、編集で彩度を足しましたが、実際の絵本の表紙はこれほど蛍光な黄色ではなく、マスタードイエローにちかい、とてもハッピーな色をしています。)
中古本を買ったので、表紙カバーの上部が痛んでいますが、右下の赤いシールをご覧ください。ネットでぽちっとしたら、実はサイン本でした(サイン本とは知らずに買いました)!
開くと、タイトルの右下に「くるくるにゅる~」という茶色の線。ご本人のサインです(笑)。かわいい。
<<<以降、あらすじネタバレあります>>>
あるところに、女の子がいました。
彼女の頭のなかは、いつもさまざまなことでいっぱい。毎日、たくさんのアイデアが頭をしめて、
星空から、海まで、女の子は新しい発見をするのを楽しんでいました。
「ある日」までは。
ある日を境に、少女の前には、ただただ空っぽのイスが。
それまでたくさんのことを、このイスのまわりで知ったのに。
それまでたくさんの発見を、いっしょに楽しんでいたのに。
少女は、この空っぽが不安になって、心を安全な場所に入れておくことにしました。
ボトルの中に入れて、首からかけておこう。
そのかわり、女の子はもはや、星にも、海にも、興味がわかなくなりました。
うきうきとした世界への好奇心は、消えうせていきました。
もしもそこで、世界の不思議に目をかがやかせた小さな人と出会わなければ、彼女は、心をボトルから出すこともなかったかもしれない。
その小さな女の子と出会って、かける言葉がなかった彼女は、自分の心をボトルから出す決意をします。
でも・・・ 。
どうやって、ボトルからとりだすんだろう。
どうしたって、ボトルはわれない。
どうしたって、心は出てこない。
そんなとき、海辺で出会った少女は知っていました。
ほら、かんたんに。
心は、出てきた場所へと、かえされ、
「イス」はもう、空っぽではなくなりました。
この絵本が傑作だなぁ、と思うのは、冒頭で、あるところに女の子がいました、としつつも、その横に、いつも彼女の発見を見守ってくれた「誰か」もいたことを、テキストでは示していないことです。そのかわり、イラストの中には、その「誰か」が彼女のそばに描かれています。
そして、イスが空っぽになった場面で、その人が、もう永遠にもどってこないところへ行ってしまったことを、イラストが示しています。
直接的に別離を語らずとも、そのとき、いかに世界が静まりかえってしまうか、その静寂が、絵本から痛いほどに伝わってきて、今も、この絵本を読み返すと、鼻が目がしらが、つんつんします。
この絵本のことを知ったのは、台湾人のクラスメートが、課題用の本を教室に持ってきていて、見せてもらったからです。
教室で、泣きそうになるのをこらえるのが、大変でした。
心をボトルに入れないと、先へすすめないときもある。
心をボトルに入れておかないと、こわれてしまいそうになるときもある。
だけれど、入れてしまってから、世界は色あせ、涙も流れなくなる。
どうやって、心をボトルから出したのだっけ?
という答えのみつからなかったとき、
未だ世界の不思議に夢中な「小さな人」が、
あっという間に、心を出してくれる。
外へ。世界へ。
もう一度。