よむためにうまれて

上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるしながら、ぷかぷかと日々に浮かぶマナティのような個人的記録も編んでいます。

心がガラス瓶に入ってしまったときは

3月11日。

四季がめぐって、一年という単位がくりかえされる地球というのは、本当によくできた星だな、と思います。

忘れないで、生きていくんだよ、と言ってくれているかのようです。

今日は、オリバー・ジェファーズの絵本から、この名作のおはなしをしようと思います。

 

オリバー・ジェファーズのThe Heart and the Bottleです。

f:id:tokyomanatee:20200310143021j:plain

The Heart and the Bottle by Oliver Jeffers (2010)


(光の加減がうまくいかず、編集で彩度を足しましたが、実際の絵本の表紙はこれほど蛍光な黄色ではなく、マスタードイエローにちかい、とてもハッピーな色をしています。)

中古本を買ったので、表紙カバーの上部が痛んでいますが、右下の赤いシールをご覧ください。ネットでぽちっとしたら、実はサイン本でした(サイン本とは知らずに買いました)!

開くと、タイトルの右下に「くるくるにゅる~」という茶色の線。ご本人のサインです(笑)。かわいい。 

f:id:tokyomanatee:20200310143032j:image

 

<<<以降、あらすじネタバレあります>>> 

 

あるところに、女の子がいました。

彼女の頭のなかは、いつもさまざまなことでいっぱい。毎日、たくさんのアイデアが頭をしめて、


f:id:tokyomanatee:20200310143050j:image

f:id:tokyomanatee:20200310143053j:image

星空から、海まで、女の子は新しい発見をするのを楽しんでいました。

「ある日」までは。

 


f:id:tokyomanatee:20200310143111j:image

f:id:tokyomanatee:20200310143108j:image

ある日を境に、少女の前には、ただただ空っぽのイスが。

それまでたくさんのことを、このイスのまわりで知ったのに。

それまでたくさんの発見を、いっしょに楽しんでいたのに。

 

少女は、この空っぽが不安になって、心を安全な場所に入れておくことにしました。

ボトルの中に入れて、首からかけておこう。

f:id:tokyomanatee:20200310172141j:image

そのかわり、女の子はもはや、星にも、海にも、興味がわかなくなりました。

うきうきとした世界への好奇心は、消えうせていきました。

f:id:tokyomanatee:20200310143132j:image

 

もしもそこで、世界の不思議に目をかがやかせた小さな人と出会わなければ、彼女は、心をボトルから出すこともなかったかもしれない。

その小さな女の子と出会って、かける言葉がなかった彼女は、自分の心をボトルから出す決意をします。

でも・・・ 。

f:id:tokyomanatee:20200310143147j:image

どうやって、ボトルからとりだすんだろう。

どうしたって、ボトルはわれない。

どうしたって、心は出てこない。

 

そんなとき、海辺で出会った少女は知っていました。

ほら、かんたんに。


f:id:tokyomanatee:20200310143159j:image

f:id:tokyomanatee:20200310143202j:image

 

心は、出てきた場所へと、かえされ、

 

「イス」はもう、空っぽではなくなりました。

f:id:tokyomanatee:20200310143243j:image

 

 

この絵本が傑作だなぁ、と思うのは、冒頭で、あるところに女の子がいました、としつつも、その横に、いつも彼女の発見を見守ってくれた「誰か」もいたことを、テキストでは示していないことです。そのかわり、イラストの中には、その「誰か」が彼女のそばに描かれています。

そして、イスが空っぽになった場面で、その人が、もう永遠にもどってこないところへ行ってしまったことを、イラストが示しています。

直接的に別離を語らずとも、そのとき、いかに世界が静まりかえってしまうか、その静寂が、絵本から痛いほどに伝わってきて、今も、この絵本を読み返すと、鼻が目がしらが、つんつんします。

この絵本のことを知ったのは、台湾人のクラスメートが、課題用の本を教室に持ってきていて、見せてもらったからです。

教室で、泣きそうになるのをこらえるのが、大変でした。

 

心をボトルに入れないと、先へすすめないときもある。

心をボトルに入れておかないと、こわれてしまいそうになるときもある。

 

だけれど、入れてしまってから、世界は色あせ、涙も流れなくなる。

 

どうやって、心をボトルから出したのだっけ?

という答えのみつからなかったとき、

未だ世界の不思議に夢中な「小さな人」が、

あっという間に、心を出してくれる。

外へ。世界へ。

もう一度。

f:id:tokyomanatee:20200310172505j:image