よむためにうまれて

上昇気流にのって旋回する沖合いのカモメのように、子どもの本のまわりをぐるぐるしながら、ぷかぷかと日々に浮かぶマナティのような個人的記録も編んでいます。

ピーター・シス展@練馬区美術館

たらら~ん♪

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行ってきました、ピーター・シス展!

練馬区美術館の企画展はなかなかおもしろいらしい、というお噂はかねがね聞いておりましたが、その練馬区美術館でピーター・シスの原画を観られるとは。光栄でした。

 

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加えて、↓このポスターの手前のロビーにテレビが置いてあって、ピーター・シスと柴田元幸先生の対談が流れていました!対談内容は図録に収録されています。感激しました~。
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そんなわけで、もう入口からテンションが上がるのですが、なんと150点以上の原画を観ることができます。

個人的にはもちろん、『チベット』の原画が期待大でした。8点展示されていました。最後の「飾り絵」は、本当に部屋に飾ったらすごく素敵だろうな~!としばし見とれてしまいました。絵本で切られてしまった部分などもよく見ることができるし、紙に筋をつけてあったり、ハンコを押したような細部など、まるで何人もの手を渡ってきたかのような絵に見せている技術をじっくり近くで観ることができました。

チベット』の原画の向かい側にかかっているThe Conference of the Birdsという本の原画も、そのままテクスタイルにしたいほど、デザイン性抜群な絵で、シスの構図への美学をあらためて垣間見た気がしました。

 

そんな、いろんな発見をさせてもらえる展示でしたが、その中のひとつがシスの点描の由来でした。

シスがロサンゼルス・オリンピックの映像制作をきっかけにアメリカに亡命したのち、なんとか絵で生きていくために、ほかのイラストレーターとの差異化として、点描を提案したらしいです。その頃のニュー・ヨーク・タイムズ・ブックレビューの挿絵がずらっと並んでいます。あの細かさは、自由の国で生きていきたいんだ!という仕事への熱意の賜物だったのかぁ、と知ってとても感動しました。この細かさはどこから来ているんだろう、と前からすごく気になっていた謎がひとつ解けました!

 

また、このブックレビューのコーナーの横の壁にある「Gotta Serve Somebody」のイラストは必見です!!

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ボブ・ディランの「Gotta Serve Somebody」☝のジャケットのイラストをシスが担当することになったらしく、チェコスロバキアの青年時代に西側の音楽から自由の光を感じてきたシスにとっては、願ってもない仕事だったようなのですが、なんとなんと制作側がシスのイラストが気に入らず、お蔵入りになった幻のジャケットイラストなんだそうです。阿呆ですねぇ、その担当者はセンスがなさすぎですねぇ。。。どう見てもすばらしいジャケットになったはずでした。

『アライバル』の表紙裏にずらっと並んだ移民のポートレートのように、まる枠のなかに一人ずつ人物が描かれている構図です。人種だけじゃなく、動物も描きこんでいて、いま児童文学界で大流行りのポストヒューマニズム的なイラストでした。またこのボブ・ディランの歌も最高です。ノーベル文学賞もわかるねぇ、というくらい、まるで「レヴィナス哲学書を歌えばこうなるんだよ」みたいな歌です。どっちもすばらしい。この原画だけでももう、この展示の値打ちがわかるというものです。

 

そうして原画が一堂に会していると、やっぱりシスのイラストの特徴っていうのは、大きく、①枠、②アルチンボルド風な埋め込み、③スタンプ(判子)、④迷路のような渦巻だなぁ、というのがよくわかります。

枠、ていうのは、絵本のなかで多用された語りですけど、シスの枠組のメタな使い方は完全に彼独自の語りになっていますね。それがあればシスの語りの大枠がまずはできあがるというくらい彼のものになっています。

そして、②については、やっぱりチェコスロバキア出身であることが根底にあるのでしょうか。物事の見えてる奥にはたくさんの別のかたちや存在が潜んでいるんだよ、ていう、視覚を疑いながら目を凝らせ、と言われているようなおもしろさがあります。

今回、私が一番興味をもったのは③と④です。

しかも、絵本では切られているような端の部分にこの③と④が散りばめられていたりしたので、原画が観られて本当におもしろかったです。

 

そして、もう一つ、原画が観られてよかった、と思った点があります。

シスの絵は点描にも見られるとおり、とても細かく描きこまれていたり、スタンプや渦巻が配置されていたりしますが、青一色の背景にもなんとも言えない声がある、というか、描きこまれていない背景にちゃんと語りが入っていることに驚きました。

コロンブスの物語』の原画で、白く透き通るような船が3隻中央に浮かんでいる以外は、青一色の空と海、というイラストがあります。解説によればこれは特殊な技法で描かれたらしいのですが、この青がすばらしかったです。ちゃんとそこに、コロンブスの船の旅をしずかに見守っている何かが入っているのがわかります。

これも原画で観ないとわからなかったかもしれません。

シスの描く星空と海原の美しさと、そこに込められているものを感じることができました。

とにかく、そんな感じで感動の連続で、展示の最後まで来たときには外はすっかり夕方になっていたのですが、美術館をとても去りがたく感じるほどでした。

出来れば逆流して(笑)もう一周しようかと思ったくらいです。

 

秋晴れの週末に、多忙だった10月のあとの贅沢な時間となりました。

練馬区美術館に感謝~(*^-^*)

 

展示は来週日曜まで☆

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